当研究室では、水田水域における生物の保全を中心に、次のような研究や活動を行っています。

1.滋賀県「魚のゆりかご水田」での取り組み

 水田は魚類の繁殖場ともなっていましたが、圃場整備が行われて水路と水田との落差が大きくなった結果、滋賀県では魚類が進入できない水田が多くなっています。そこで滋賀県は2001年度から、農業排水路に魚道を設置し、魚が水田に遡上できるようにする「魚のゆりかご水田プロジェクト」に取り組んでいます。
 本研究室では、水田が魚類の繁殖・成育の場として有効に機能するよう、本学の圃場を中心に、水田内部での魚類の成育、中干し時の溝切り方法や落水方法と魚類の降下率との関係について研究しています。様々な条件を設定して行う実験的な研究では、大学に実験圃場があることが大きな強みです。2016年度からは、農家の協力を得ながら、魚道がうまく機能せず、魚類が遡上できないケースについて原因を明らかにする研究に取り組んでいます。
研究には、実際の水田で行われている作業や水管理を見ることが不可欠であり、「魚のゆりかご水田」に取り組んでいる地域にお邪魔して、農業排水路に堰板を入れて堰上げる作業や田車による除草を経験させていただいたり、中干しのときに水田から出てくる魚の調査をお手伝いしたりしています。「魚のゆりかご水田米」を購入することが、水田を利用する魚類の保全を支えることにつながるため、授業で農家にお話しいただくこと、湖風祭でのPRブースの出展、学食での「魚のゆりかご水田米」提供など、多くの人に取り組みを知ってもらう活動も続けています。

排水路堰上げ式水田魚道
水田魚道を設置するお手伝い
湖風祭でのPRブース出展
2.環境配慮施設の効果の検証と改良

 2001年に土地改良法が改正され、土地改良事業を行う際に「環境との調和への配慮」が必須とされました。その後に行われている事業では様々な環境配慮施設が施工されていますが、その効果については十分検証されていません。本研究室では、現在圃場整備事業が行われている地域を対象として整備前後の水生生物と環境条件の調査を行い、整備前に生息していた生物の個体群が整備後にも保全されるかモニタリングしています。

環境配慮施設に堆積した土砂の測定
雪の中での流量観測

 事業の中で水路に施工された「魚溜工」、「環境配慮型合流桝」、「小動物用スロープ」が、それぞれ越冬・繁殖・成育・移動を保障する施設となっているかを調査しています。また、シミュレーションモデルや水理模型実験により、水生生物の生息環境と深くかかわる、施設内の流況や土砂の堆積・洗掘について研究しています。こうした、地域に入って行う研究には農家をはじめとする地域の方々の協力が不可欠です。
 また、近代的圃場整備が行われていない水田水域にのみ生息する魚類も見られるため、こうした魚類が生息できる環境条件を明らかにすることも大切な課題です。未整備の水田水域は、整備済みの水田水域と比べて手作業による水路の泥上げ、草刈りなどの維持管理が多く必要であり、農家は身体で地域の自然や水利施設の状況を把握しています。この、身体を通して得る学びを知らずして保全を語ることはできません。水利施設を常に点検し、自ら補修を行うこうした維持管理は、まさにストックマネジメントそのものでもあります。

3.農業水利施設の水利用機能診断

 農業用水が、適時、適量、各圃場に届き、安全に排水されることが理想ですが、用水が不足することは現在においても度々見られます。特に、都市近郊地域において水路が部分改修される機会が多くなり、そのことが配水に悪影響を及ぼす問題に注目しています。  

路線変更後に幹線と支線の流量配分比が変化