私たちの研究室では、微生物(主に菌類)を対象に分子遺伝学的な研究をすすめています。特に、以下の3点に強い興味を持っています。
(1)植物に対する“共生メカニズム”および“寄生メカニズム”とは?
(2)菌類はどのように進化を遂げてきたのか? 
(3)菌類は何を見て、どう考え、行動するのか? 

これらの研究から、植物共生菌の有効利用、植物病原菌の防除、高価格帯きのこ類の人工栽培などへの応用を目指しています。以下、具体的な研究例を示します。

1.外生菌根菌の共生メカニズムの解明

 地球上にはさまざまな共生体が存在しますが、そのなかでも“菌根”は最も重要なものの1つと言えます。菌根とは、植物の根と菌根菌と呼ばれる微生物の共生体のことです。菌根菌にはアーバスキュラー菌根菌や外生菌根菌などが知られています。これまで、多くの研究がおこなわれてきましたが、分子遺伝学的な観点でみると外生菌根共生メカニズムの研究はあまりすすんでいません。
 私たちの研究室では、菌根菌が持つ特定の遺伝子を狙って破壊する逆遺伝学的手法などを用いて、菌根共生メカニズムの解明を目指しています。
 また、松茸やトリュフなどの高価格帯きのこの多くは外生菌根菌です。これらの菌類は、宿主植物と共生しなければ子実体(きのこ)を形成しないのではないかと考えられており、室内での人工栽培には成功していません。このような外生菌根性きのこ類の人工栽培化の鍵となる因子も見つけたいと考えています。

予測される外生菌根共生関連因子
2.植物病原菌の感染メカニズム解明

 植物病害のうち70%以上が菌類によるものと言われています。植物病原菌類の感染メカニズムを解明することは、病害の防除に貢献できるものと考えられます。
 私たちの研究室では、逆遺伝学的手法および順遺伝学的手法を用いて植物病原菌類の感染メカニズムの研究をすすめています。特に、植物病原菌の細胞がどのように植物を認識し、どのように考え、感染をすすめていくかという分子メカニズムの全容解明を目指しています。
 また、分類群の異なる複数の植物病原菌(トウモロコシごま葉枯病菌、灰色かび病菌、ウリ類炭疽病菌など)や共生菌を比較することで、“病原性や共生の進化“についての解析もすすめています。

遺伝子破壊株の病原性試験
(左:野生株、中:遺伝子A破壊株、右:遺伝子B破壊株)
GFPを用いた病原性に関わるタンパク質の可視化