我々の研究室は“土”を研究しています。土は持続的、且つ、安定で多様な食糧生産を支える唯一無二の資源であると同時に、陸域生態系におけるさまざまな物質循環や生物多様性などを支える重要な場でもあります。また、地球温暖化をはじめとする環境問題にも密接に関わっています。“土とは何か?”当研究室ではこの問いを原点とし、土が本来持っている様々な機能(役割)を特に化学的な視点から理解し、我々の生活に応用していくこと目指しています。
現在、当研究室では“土”をキーワードに以下のような研究を展開しています。
1.“土”に含まれる難分解性有機物(腐植)の動態と機能に関する研究
土には重さベースで1~20%程度の有機物が含まれていますが、その大部分を占めるのが微生物などに分解され難い腐植と呼ばれる難分解性の有機物です。土によって(土を取り巻く環境を含め)腐植の量や質は大きく異なります(図1)。このような腐植の量や質の違いがいったいどのように生み出されるのか?陸域生態系への影響は?といったことを国内外のさまざまなフィールドで調査・研究をしています(図2)。腐植は土の構造(物理性)や肥沃度(化学性・生物性)に深く関与しているので、自然環境における腐植の動態や機能を詳しく理解することは土の働きそのものを知ることになり、効率的な土づくりなど農業分野への応用にも欠かせないと考えています。
図2. 主な調査・研究フィールド
2.バイオチャーを活用した“土”づくりに関する研究
滋賀県は琵琶湖をはじめ水資源に恵まれており、国内有数の米どころとしても知られています。もともと水田の土は畑の土に比べ肥沃であることが多いのですが、減反政策が開始されて以降、多くの水田は数年に1度の頻度で畑として利用する「水田輪作」形態がとられてきました。その結果、水田の地力(肥沃度)は低下していることが明らかになってきました。これは主に水田の土に含まれる有機物(腐植)量の減少を意味しています。したがって、今後の水田はこれまでに失われてきた地力を回復しつつ、且つ、地球温暖化対策など環境に配慮したものでなければなりません。このような水田土壌における問題の解決策として、当研究室ではバイオチャーに着目しています。バイオチャーとは籾殻や稲わらなどの有機物を炭化した物質の総称で有機物であれば基本的に何でも材料となり得ます。バイオチャーを水田土壌へ効率的に還元することで、持続的な作物の生産性(量や品質)向上と環境負荷低減(温室効果ガス、水質など)の両立を目指しています(図3)。
図3. ポット栽培試験(左)と温室効果ガスの測定(右)のようす